役者の稽古をしている男性、おさむさん(仮名)がレッスンに来てくださったときのことです。
おさむさんは「声帯を鍛える」ということがサッパリわからない!という悩みを持っていました。
先生に「声帯を鍛えなさい」と言われたのですが、何をすればいいかわからないのです。
先生にそう言われたんですね。その先生は、鍛え方を教えてくれましたか?
いえ、鍛え方を質問したのですが「自分で考えろ」と言われてしまいました・・・・
そうですか。ということは、その先生は具体的な方法を知らないんでしょうね。
もし先生が具体的な鍛え方を知っているなら、もう少し別の言葉を使ったはずですからね。
先生も知らないなら、なぜ私にそうしろと言ったのでしょう?
それは私にもわかりません。でも先生は間違ったことをしたとは思っていないでしょう。正しいことをしていると信じているはずです。
ところで、先生がいう「声帯」って、どこのことだど思いますか?
えっと・・・このあたりでしょうか?(おさむさん喉のあたりを指さす)
みなさん、そのあたりを指しますよね。ではどこからどこまでが声帯ですか?
ですよね。だって「声帯」というものは存在していないんですからね。
声を出す時って声帯が振動しているんじゃないんですか?
ということは、今こうしてお話をしているおさむさんのカラダのどこが振動しているんでしょうか?
えっと・・・このあたりです。(また喉の部分を指す)
ですよね。ちょっと意地悪なことをしてしまったかもしれませんが、こんな風に声帯が何を指しているかと言うことについてほとんどの人がうやむやにしているんです。
・・・そういえば、今まで教わってきたことやネットで見た声帯に関する情報って、人によって言っていることが違ったような気がします。
その通りなんです。だからみんな曖昧なまま放置しているんです。
じゃあ、ボイトレとか発声の練習で言われている「声帯を鍛える」ってどういうことなんですか?
その質問に答えるために、別の例をお話しましょう。おさむさんは「肩」という言葉を聞いたことがありますか?
えっと・・・この辺からここくらいまでですかね(おさむさん、鎖骨から腕の関節あたりまでを触れる)
今「ここから」って言いながらおさむさんが刺した所は鎖骨ですね。で「ここまで」と言っていたときに挿していたのは肩胛骨の一部ですね。
いや、残念ながら私たちのカラダに「肩」という部位は存在していないのです。
とはいえ、肩という言葉を言われておさむさんはその意味を理解できるでしょう?今もご自身が思っている肩についてここからここまでと教えてくれましたからね。
でもそれが相手が意味している肩とは必ずしも一致するとは限らないわけです。
前にレッスンに来てくださった女の子とも似たような会話をしたんですけどね、その女の子は自分の肩をここだと言っていました。(トクガワ、腕の付け根を指さす)
不思議なことに、私たちのカラダにある肩は人によって場所が変わるんですよ。だから私は、人間の体には肩はないと考えています。むしろ、誤解を生む原因となる存在とも考えています。
そうです。例えばある人が「肩をもう少し上に上げて」と言ったとしましょう。するとおさむさんと先ほどの女の子では、異なる動きをするわけです。
・・・あ、そうですね。僕とその女の子はどこを肩と考えているかが違うので、確かに違うことをしますね。
だから私は、極力「肩」という言葉を使わないようにしています。
肩についてはなんとなく理解できました。これが声帯とどう関係があるのでしょう?
もう答えを言ったも同然なんですけどね・・・。肩も声帯も同じです。存在していないんです。
せっかくなので喉頭、つまり喉のあたりの図を見ておきましょうか。
私たちの発声器官の1つである喉頭はこんな風になっています。ここに声帯筋というものがあります。更にその上には声帯靱帯と呼ばれるものがあって、その上には粘膜があります。
『プロメテウス解剖学 コア アトラス 第2版』
図39.21 前庭ヒダと声帯ヒダ
おそらく、この構造はおさむさんのカラダにもあるはずです。そして、これらをまとめたものが声帯ヒダです。声を出すときはこの声帯ヒダが振動しているんです。
では、この声帯ヒダというものが「声帯」なんでしょうか?
そうですね。ですが、多くの人は声帯という言葉が何を指しているか、バラバラなんですね。ある人は声帯筋のことを指していたり、ある人は声帯靱帯のことを指していたり・・・。
たしか、インターネットで調べてみたとき、人によって言ってることが違うと感じました。
ですよね。それに、先ほど見ていただいた図のどこからどこまでを指して「声帯」というかも、人によっては異なるんですよね。だから私は「声帯」という言葉を使うこと自体が混乱を招くんだと考えているんです。
そうです。肩という言葉が人によって認識が違うように、声帯という言葉も人によって認識が違います。だからそんな曖昧な言葉を使っていると、誤解を招くだけなのです。
では、「声帯を鍛える」という言葉はどのように考えればいいのでしょう?
私は「声帯を鍛える」という言葉がなくなればいいと考えています。
声帯について人によって認識が異なるのはお伝えしたとおりですよね。声帯のことを声帯筋と考えている人もいれば、声帯靱帯と考えている人もいる。そのため「声帯を鍛える」についての考え方も人によって違うのです。
声帯のことを声帯筋だと考えている人は「声帯は筋肉だからトレーニングすれば鍛えられる」と言っていますが、声帯のことを声帯靱帯だと考えている人は「声帯は靱帯だから鍛えられない」と言っているわけです。
鍛えられると言う人と鍛えられないという人がいるわけですね。
そうです。ここでおさむさんのように「声帯を鍛えなさい」と言われてそれをやろうとしている人は、どっちの情報を信じていいかわからないですよね。
確かに。鍛えられるという人と鍛えられないという人がいますから、どっちが本当かはわからないです。
だから私は「声帯を鍛える」という言葉がなくなればいいと思っています。いや「声帯」という言葉を使う人が少しでも減ればいいとさえ考えています。
トクガワさんの考えも一理ありますけど・・・私が先生に言われた「声帯を鍛えなさい」というのはどう理解すればいいんでしょうか?
そうですね。私は、まず声門が開閉している仕組みを知ることが必要だと思います。
声門というのは、左右の声帯ヒダの間にある隙間のことです。この隙間が開いたり閉じたりするのですが、ここに肺から送られてきた息が当たることで声帯ヒダが振動して音が生まれるんです。
私たちが色々な声を出すことができるのは、この声帯ヒダの隙間を調整することができるからなんです。この図を見てください。
『プロメテウス解剖学 コア アトラス 第2版』
表39.7 喉頭筋の作用
A 喉頭筋、上方から見たところ
この声帯ヒダの隙間を開くとき、そして閉じるときに働いている筋肉があるのです。
そうなんです。私たちが声を出すときには、これらの筋肉が繊細なコントロールをしてくれるので色々な声を出すことができるワケです。
そう考えるのはまだ早いですよ。発声に関する筋肉はこれだけではありません。この図を見てください。
『うたうこと 発声器官の肉体的特質―歌声のひみつを解くかぎ』
図35 喉頭懸垂(保持)機構
この図は先ほど見た図の外側にある筋肉たちです。これらの筋肉も発声には大きく関わっています。
そうですね。声を出すためにはこれらが互いに協力し合って働く必要があるわけです。
でもこれらの筋肉はどうやったら鍛えることができるんでしょうか?
例えば腕や背中の筋肉を鍛えるにはどうすればいいと思いますか?
そうですね。まず真っ先に筋力トレーニングが思い浮かびますよね。
ってことは、この発声に関係する筋肉たちも筋トレが必要というわけですね?
筋肉なので鍛えることはできるでしょう。でもどうやってトレーニングすればいいのでしょう?
腕や背中の筋肉を鍛えるならその筋肉に負荷をかけるトレーニングが思い浮かぶでしょうけど、さすがにこれらの筋肉に負荷をかけるのはあまりよくないと考えます。
私は、使うときに意識するだけでいいと考えています。
そうです。つまり、声を出すときにこれらの筋肉を意識しながら声を出すんです。無理に使おうとするのではなく、これらの筋肉が働いてくれるようにお願いするだけでいいんです。
はい。おさむさんは今までこれらの筋肉のことは知らなかったわけですよね?
ということは、これまでおさむさんが声を出すときには勝手に働いてくれていたわけです。でも今、おさむさんはこれらの筋肉の存在を知りましたから、意識して使うこともできるようになるわけです。
意識するってことは、力を込めればいいんでしょうか?
それは多くの人がやってしまいがちなんですよね。意識する=力を込める、ではありません。今まで以上に仕事をしてもらうことをお願いするだけでいいんです。
自己紹介や挨拶でもいいですよ。例えば「こんにちは、洋介です」とか。
はい、ありがとうございます。次は、先ほどお見せした図の筋肉たちがお仕事するようにお願いしながら同じ事を声に出してみてください。
はい、ありがとうございます。私には違って聞こえましたがおさむさんはご自身でどう感じましたか?
たしかに違いました。1回目の方はいつも通りに声を出しているんですが、2回目の方はより力が抜けた感じがしました。
いいですね。おさむさんのカラダの使い方を見ていると、1回目の方は喉のあたりにものすごく力を込めているように見えました。そして2回目はそれがなかった。なのに、1回目よりも大きく、ひびきのある声でしたね。
そうですか・・・自分では1回目にそんな力を込めているつもりはなかったんですか・・・
おそらく、その使い方がおさむさんのいつもの使い方になってしまっていたのでそう感じていたんでしょうね。でも2回目と確実に違いましたよね。
これはあくまで私の考えですが、いままではある特定の部分だけに無理やり仕事をさせようとしていたのが、2回目はたくさんの部分が協力して仕事をしていたからこんな変化が起きたんです。
あ、「声帯を意識する」ということが邪魔していたんですね。
その通りです。しかも、声帯なんてありもしないのに。2回目は発声に関わる筋肉たちがそれぞれ仕事をした結果です。
例えば、おみこしを担ぐとき、4人で担ぐのと8人で担ぐのではどっちが楽ですか?
2回目に声を出してもらった時のおさむさんはそれと同じ事をしただけですよ。
ということは・・・普段、力を入れながら声を出していたんですね
そうかもしれませんね。さて、私は、これこそが「声帯を鍛える」が意味していることだと考えています。
今まであまり使われていなかった発声に関わる筋肉たちを、こんな風にそれぞれがそれぞれののお仕事をするようにしていくことです。別の言い方をすると、神経支配を強めていくともいいますね。
今まではあまり使われていなかった筋肉たちを必要に応じて活動してもらえるようにしていくことですね。そのためにはカラダのデザインに沿った使い方をしていく必要があります。
はい。私たちのカラダは骨や筋肉でできていて、神経のようなネットワークが張り巡らされています。
今も世界のどこかで科学者が研究して私たちのカラダの謎を解き明かそうとしてくれているはずです。その中の一つに、ある普遍的なことがあります。
私たちのカラダには生まれ持ったデザインがあります。約200あまりの骨が形成している骨格があって、どこの関節が曲がるとか、そのためにはどんな筋肉が働くかとか。
骨がたくさんある、というのは聞いたことがあります。
生まれ持ったカラダのデザインがあるのですが、そのデザインに反した使い方をすると、私たちのカラダの機能や可動性、柔軟性が損なわれてしまうのです。
確かにそうですね。2回声を出してもらいましたけれど、1回目はカラダのデザインに反した使い方、2回目はカラダのデザインに沿った使い方だったんですよ。
その通りです。声帯という私たちのカラダに存在しないものを意識するあまり、おさむさんが自分で自身のカラダを邪魔をしていたんですね。それをなくしてデザイン通りに使うことができたから、声を出しやすくなったわけです。
だから「声帯を鍛える」ことに時間を使う暇があったら、私はカラダのデザインに反する使い方をする習慣を変えていく方がよっぽど近道だと思います。
そうですね。まずは自分でその習慣に気づくことができなければ始まりません。でも私のレッスンの本質はその能力を身につけてもらうことなんです。だからこのままレッスンを続けてもらえれば、おさむさんにもその能力は確実に身につきますよ。
その通りです。その能力が身につけば、私はその人の未来が変わると信じています。さて、残った時間で何かやってみたいことがありますか?
はい!アルバイトでコールセンターのオペレーターをやっているのですが、長時間勤務しているとだんだん声を出すのが辛くなってきて・・・
わかりました。それを題材にカラダのデザインに沿った使い方を考えていきましょう。
・・・と、おさむさんとのレッスンは続きます。
さて、「声帯を鍛えなさい」と言われていたおさむさんの声はレッスン中に変わってしまいました。
鍛えなくても、より大きな声やより響く声は出せるんです。
あなたにはその理由がわかりますか?
さらに学びを深めたい方へ
もっと知りたい方や理解を深めたい方はこちらの記事もあわせて読んでおくと更に効果的です!
≫「声帯を鍛える」なんて無駄なこと、いつまでやってるの?
声のことで困ったら
声を出すときのカラダの使い方、ココロの使い方など困ったことやわからないことがあったらご相談に乗りますよ^^ 相談したい方はぜひLINEで気軽に話しかけててくださいね!
今なら『読むだけで理想の声になれるE-Book』も無料プレゼントしています♪
▶ LINEでE-Bookを受け取る