腹式呼吸の練習で気をつけたい3つのポイント

B!

こんにちは。
発声改善士のトクガワ です。

さて、呼吸についてのシアトルで学んできたことの振り返りも一段落したので、改めて呼吸について考えてみましょう。

今回取り上げるのは、そう!みんな大好きなあの呼吸です!

「腹式呼吸」です。

今も昔も腹式呼吸の練習をしている人はたくさんいますし、声優やナレーターに限らず、俳優や役者、歌手や吹奏楽器奏者の方など、声や息を使う方ならもちろん腹式呼吸について習ってきているはず。

最近では、健康志向や予防医療の観点からも呼吸法は注目されています。

でも、間違った練習方法で腹式呼吸に取り組んでしまっては意味がありませんし、その努力が無駄になってしまう恐れもあるわけです。

改めて腹式呼吸への理解を深めるとともに、腹式呼吸の練習をする上で気をつけたい3つのポイントについてまとめました。

腹式呼吸に興味がある全ての方に向けてお送りします!!

 

いまさら聞けない?「なにが腹式呼吸なの?」

本題に進む前に、まずは腹式呼吸についておさらいしましょう。

その前に、皆さんご自身が理解している「腹式呼吸とは何なのか?」について知っていただくところからはじめましょう。

腹式呼吸について

例えば、後輩や新人に「腹式呼吸でイマイチよくわからないんですが・・・教えてもらえませんか?」と質問されたら、あなたはどんな風に説明しますか???
私だったら、かなり大ざっぱですが、こんな風に説明します。
「腹式呼吸とは、肩や胸を動かさずに呼吸をするのでお腹がより動く呼吸です!」

そう一言で言った後、息を吸い込むときにお腹が前に出たり、息を吐くときにお腹が引っ込む動きを見せるとよりわかりやすいですかね。

さらに、それだけでは足りないと思いますので腹式呼吸をするときの気をつけるべきポイントも伝えるかもしれません。

一般的な腹式呼吸

さて、後輩や新人に腹式呼吸のポイントを伝えるとしたら、あなたはどんなことを伝えますか?

皆さんも専門学校や養成所、スクールなどで腹式呼吸をさんざん習ってきたと思います。おそらく、その時に腹式呼吸の大切なポイントも習っているでしょうし、ご自分なりの理解がありますので個人差はあるでしょう。

とはいえ、腹式呼吸の共通認識として、こんなことが挙げられるのではないでしょうか。

・胸を動かさずに呼吸する(それは胸式呼吸なので腹式呼吸ではない!)
・お腹に息を入れる
・肩を動かさずに呼吸する
・横隔膜を下げる
・お腹で呼吸をする
・お腹を前に動かす

特に「お腹に息を入れる」というのは、私も多くの方から聞いたことがあります。
以前、私のレッスンに参加してくださったアスカさん(女性、20歳)とこんなやりとりがありました。

 

アスカさん
腹式呼吸がうまくできないんです。 

トクガワ
腹式呼吸ってどんなことだと思う?

アスカさん
お腹に空気を入れるって、友達が言ってました。それがよく分からないんです。

トクガワ
お腹に空気は入らないんですけど・・・?

 

腹式呼吸がうまくできないと悩む方の多くが、お腹に空気を入れようとしたり、お腹で呼吸をするものだと思っているようです。

皆さんも、腹式呼吸について、そんな風に理解していませんか?

そんなあなたに、嬉しいお知らせと残念なお知らせがあります。

まずは、残念なお知らせ。
あなたの腹式呼吸は、あなたの呼吸をより不自由にしてしまう恐れがあります。

でも、嬉しいお知らせもあるんです!

もっと呼吸についての理解を深めれば、あなたの腹式呼吸はより効率がよくなり、あなたの声やパフォーマンスをさらにレベルアップしてくれるサポートになります!

 

呼吸では何が起きている?

というわけで、呼吸について大切なことについて知っておきましょう。

肺の場所

呼吸は、空気中の酸素を体内に取り入れることと体内で発生した二酸化炭素を体外に排出するという、私たちが生まれながらにして持っている機能です。

では、空気中の酸素は体内のどこをめがけて取り入れるでしょうか?

おそらく皆さんご存じだと思います。

はい、そうです。

お約束ですね(笑)

肺に送られていきますよね。
まずは肺がどこにあるかを知っていただきたいのです。

 


引用:『プロメテウス解剖学 コア アトラス 第2版』

上は鎖骨の辺りまで、下はみぞおちのあたりまであります。

そして横からも見ておきましょう。

 


引用:『プロメテウス解剖学 コア アトラス 第2版』

上半身の前と後ろ、ほとんどを占めていますよね。
え!?こんなに大きいの?そんな風に驚くかもしれませんが、本当に大きいんです。よりその大きさを知りたい方は、お友達に協力してもらって次のことを試してみてください。お友達の右手をあなたの鎖骨に、左手をみぞおちの高さに置いてもらってください。

そして、その手をキープしてもらったままあなたが場所を移動してみましょう。お友達の両手はそのままで。そして、その両手を見てみましょう。お友達の右手と左手の間があなたの肺の高さになるわけです。

同じ要領でお友達の右手をあなたの胸の下辺りの肋骨に、左手を背中に置いてもらってください。そしてあなたがその場からスッと横に移動してみましょう。

そうです。お友達の右手と左手の幅が、あなたの肺の厚みなのです。

厳密には全くそのサイズというわけではありませんが、だいたいの大きさは知っていただけると思います。

どうですか???

思っていたより大きいでしょ?

肋骨

続いて、肋骨についても確認しておきましょう。

肋骨は上半身にある骨で、肺や心臓などの臓器を守る役目を果たしています。それと同時に、呼吸運動にも関わります。

実は呼吸をする際、筋肉の収縮によって肋骨が持ち上げられます。そうすると肋骨の内側(胸郭といいます)前後左右に広がります。そして元に戻るという動きを繰り返しています。

胸郭が前後左右に広がると何が起こるでしょうか???

その答えは、横隔膜の動きを解説してからにしましょう。

横隔膜

腹式呼吸を指導する方の中には「横隔膜を下げて!」と言われる方もいますよね。

そんなこと言われても、意識的に動かすなんて難しいよ・・・と思うかもしれません。

しかし、横隔膜は随意筋(自分の意思で動かすことができる筋肉)なので、コントロールすることができるのです。

例えば、病院での診察時に先生から「息を吸い込んでー、止めてー」とほんの少しだけ息を止めることってありますよね。このとき、横隔膜の動きを止めているのです。

しかしながら、腕や脚のようにその動きを自分の目で見ることができないので、なかなか動いているイメージを掴みづらい・・・、それが横隔膜です。

呼吸における横隔膜は非常に有名なので、図を見たことがある方も多いと思いますが改めて確認しておきましょう。

 


引用:『プロメテウス解剖学 コア アトラス 第2版』

こんな風に肋骨の下辺りにあって、ドームの屋根みたいになっています。
胸郭(肋骨の内側)からみると横隔膜は床になっているわけですね。呼吸時にこの床が下がったり元に戻ったりするんです。

さて、横隔膜が下がる、つまり床が下がると何が起きるでしょうか???

さっき紹介した肋骨の動きと一緒に考えてみましょう

呼吸時の肺の動き

ここまでのことを振り返っておきましょう。
・肺の大きさがなんとなくイメージできた
・肺を覆う肋骨は、呼吸時には動く。肋骨が動くことで胸郭が前後左右に広がる。
・横隔膜は肋骨の下側にある。呼吸時には下方向に動く。

ではこれらを踏まえて、呼吸時の動きをより詳しく見ていきましょう。
肋骨が動くことで胸郭(肋骨の内側)が前後左右に広がります。肋骨の内側には胸腔という空間があるので、当然ながらこの胸腔も広がります。空間が広くなるということは容積が増すわけです。

そして、横隔膜も下方向に動きますので下方向にも胸腔が広がります。

肋骨と横隔膜の動きによって胸腔が広がることで、胸腔の内側にある肺にも容量の変化が起こります。肺の容量も大きくなるのです。すると、気圧変化が起き、肺に空気が流れ込んできます。これが息を吸うときに起きていることです。
反対に、肋骨や横隔膜が元に戻る動きをすることで、今度は胸腔が狭くなります。引き上げられていた肋骨は元に戻り、下方向に下がっていた横隔膜が戻ってくることで、広がっていた空間は狭くなります(元に戻る)。すると肺から空気が押し出されます。息を吐いているときの動きです。

空気が流れ込んできたときに肺は大きくなり、空気が押し出されたときは肺は小さくなります。もちろん、空気が流れ込んでくるときが息を吸い込むとき、空気が押し出されたときは息を吐き出すときですね。

それでは、腹式呼吸の練習をするにあたって気をつけたいポイントに入る前に、ここまでをおさらいをしておきましょう。

 

【息を吸うときに起きていること】
・肋骨が持ち上げられることで、胸腔が前後左右に広がる
・横隔膜が下方向に動くことで、胸腔が下方向に広がる
・肺が大きくなる

 

【息を吐くときに起きていること】
・持ち上げられた肋骨が元に戻ることで、胸腔が狭くなる
・下方向に動いた横隔膜が元に戻ることで、胸腔が狭くなる
・肺が小さくなる

 

おや?

腹式呼吸で習ったことや大切なポイントと一致しないことがありませんか???

 

腹式呼吸が邪魔していること

今回の記事のはじめで腹式呼吸で大切にされていることについて考えてみましたね。それを呼吸時に起きていることにあてはめてみると、いくつか矛盾していることに気づきませんか???

では、何が矛盾しているのか、一つ一つ詳しくみていきましょう。

「肩を動かさない」は肺が大きくなるのを邪魔する?

腹式呼吸の練習において、多くの方が大切にしているポイントのひとつ「肩を動かさない」ということについて考えてみましょう。

私たちの身体が動くとき、多くの骨や筋肉が互いに影響し合っています。外見上は腕の動きに見えても、その動きは他の部位にも伝わります。ほんのわずかですが、脚にまで影響を与えるのです。

当然、肋骨が動くということはその周辺にある部位に影響を及ぼすわけですね。では、肋骨の周りには何があるでしょうか?特に注目して欲しいのは上方向。肋骨の上には鎖骨や肩甲骨があります。肩を動かさないということは、鎖骨や肩甲骨の動きを止めるということです。つまり、腹式呼吸の時に肩を動かさないようにするということは肋骨の上側への動きを抑えつけることになります。

肋骨の上側への動きが制限されてしまうと、胸腔も上方向に広がることはできませんから肺が大きくなることを邪魔してしまうのです。

つまり、腹式呼吸で教えられている「肩を動かさない」というのは、呼吸を邪魔していることになってしまうのです。

「胸を動かさない」も肺の動きを抑えつける?

続いて、腹式呼吸において大切だとされる2つ目のポイント「胸を動かさない」について考察してみましょう。

胸を動かすのは胸式呼吸だから呼吸時に胸が動くのは腹式呼吸ではない、と言われています。ひとまず胸式とか腹式とかは置いといて、呼吸そのものについて考えてみましょう。

先ほどの呼吸についてまとめた中に、胸の動きに関係することがありましたよね?そうです。息を吸い込むときに起きる動きで、肋骨が持ち上げられるときに、胸腔が前後左右に広がるという動きです。

肋骨が動くということと胸が動くということは同じ事を意味しているのは想像できますよね。では、呼吸の時に「胸を動かさない」ことを大切にしているとどんなことが起きるでしょうか?

息を吸い込むときに当然起きるはずである胸が動くという動きを抑えつけるつけていることになります。胸の前側への動きを抑えつけることは、肺が前側に膨らむことを抑えつけていることになります。

そのため、腹式呼吸で教えられている「胸を動かさない」ということも、呼吸を邪魔していることになってしまいます。

本当にお腹に空気が入るのか???

そして腹式呼吸でよく言われている3つめのポイント「お腹に空気を入れる」ということについてみていきましょう。これは「お腹で息をする」とも言われますよね。

さて、ここまで読んでくださった方ならお気づきですよね???

確認のため、別の図を見てみましょう。

 


引用:『プロメテウス解剖学 コア アトラス 第2版』

もうお分かりですよね?

空気は肺に出入りします。横隔膜から下に、お腹の方に入っていく空気はありません。腹式呼吸の練習方法で「お腹に空気を入れる」という現象は、私たちのカラダの構造においてどんなに頑張っても起こりえないことなのです。

いくらイメージとはいえ、現実で起こりえないイメージをもって練習をしていると、本当にできているかわからなくなったり心配になるのは当然の結果でしょう。

 

効果的な腹式呼吸は?

「肩を動かさない」「肩を動かさない」「お腹に空気を入れる」という、腹式呼吸の代表的な練習方法が実は呼吸の邪魔をしていたんですね・・・。なんだか腹式呼吸そのものが呼吸の邪魔をしているような気がしますよね・・・。お仕事で声を使ったり、吹奏楽器を演奏したり、呼吸や息の使い方がパフォーマンスに影響する方にとって、腹式呼吸は良くないものなのでしょうか???

でも専門学校や養成所では「腹式呼吸はできて当たり前」と教えられますし、声楽などを音大で学んでいる方からもそう教わったと聞いたことがあります。

腹式呼吸が呼吸の邪魔をしないように、もう一度呼吸について考察してみましょう。

呼吸の目的は空気を取り込むこと

私たちにとって、息のコントロールが演技や表現のパフォーマンスに直結しますから、呼吸というものをとてもデリケートに考えています。しかし、そもそも呼吸とは一体何のためにしているのでしょうか?

深く考えていくと大変難しくなるのでシンプルに考えてみましょう。

呼吸をすることで、私たちは酸素を取り入れます。酸素は体内のあらゆるところに運ばれ、最終的に二酸化炭素になります。そして二酸化炭素を吐き出します。このサイクルを繰り返すことで体内にエネルギーを取り入れています。「酸素を取り入れる」という呼吸本来の目的が達成されることが、私たちのエネルギーを最大に供給できることになり、その結果、演技や表現のパフォーマンスの質が上がることに繋がる。そんな風に思いませんか?

効率のいい呼吸は肺がいちばん大きく膨らむこと

それでは、胸式呼吸とか腹式呼吸とかはいったん忘れて、効率よく酸素を取り込み、効率よく二酸化炭素を吐き出すことができる呼吸について考えてみましょう。

呼吸をすることで空気は肺に流れ込みますから、肺の容量を最大限に活用できればたくさんの酸素を取り込むことができますよね。では、肺の容量を最大限に活用するためには、どんなことが必要でしょうか?

先ほどから、肋骨や横隔膜の動き、そして肋骨や横隔膜が動くことで肺がどのように動くかを見てきました。肋骨が持ち上げられ、横隔膜が下方向に動くことで、胸腔が広がります。胸郭が広がることで、肺も広がります。ということは、肺の容量を最大限に活用するためには、肋骨や横隔膜がより大きく動くことができればいいということですね。

効率のいい呼吸は、結果的にお腹も膨らむ

ではどうして腹式呼吸はこんなにも多くの方に採用されているのでしょうか?

それは、胸式呼吸に比べると腹式呼吸の方が肺が大きく広がることができるからでしょう。

もう一度、肺の広がり方を考えてましょう。肋骨が持ち上げられることで、肺は前後左右に広がることができるようになります。横隔膜が下方向に動くことで、肺は下側に広がることができるようになります。

この二つの広がりを比較してみましょう。前後左右の広がりと下方向の広がりではどちらがより広がりやすいと思いますか?

まず肺が前後左右に広がることについて考えてみましょう。肺が前後左右に広がったとして、どこまで大きく広がることができるでしょうか?肋骨が引き上げられることで肺は前後左右に膨らむことができますが、どれだけ大きく広がろうにも肋骨に覆われていることには変わりありませんから、その広がりには限界があります。

では下方向の広がりについて考えてみましょう。横隔膜が下がることで、肺は下方向に膨らみます。横隔膜の下方向には何があるでしょうか?肋骨のような臓器をガードする骨格はなく、お腹があります。ガードがないということは、肋骨に守られている空間での前後左右の広がりと比べると、下方向へはより広がることができそうです。

横隔膜がより下方向に動き、肺が下側に広がったらどんなことが起こるでしょうか?横隔膜は胸腔にとっては床のようなものですが、お腹側から見ると屋根のようなものです。形もドームの天井のようなものですよね。さて、天井が落ちてきたお腹はどうするでしょうか?落ちてきた天井にあわせて床も下方向に押したいところですが、お腹の下には骨盤があります。骨盤があることで下方向には逃げることができません。そのため骨でガードされていない部分に逃げようとします。骨でガードされていない部分は前と後です。

おや?何か気づきませんか???

お腹が前と後に動いてきました。これは腹式呼吸で言われている「お腹を前に動かす」ということが起きましたね!!

そうなんです。

お腹が前に出るのは、効率のいい呼吸をしたことで初めて起きる「結果」でしかないのです。
腹式呼吸=お腹の動きと考えすぎると、効率のいい呼吸を無視してお腹の動きを起こそうとしてしまうことになりがちです。

例えるなら、キーも挿さずエンジンもかけずにアクセルを踏んで、車を前に進めようとしていることと同じだと思いませんか???

 

まとめ

私も過去に教わっていた先生には「お腹が動いていないと腹式呼吸ができていない証拠だ!」とよく言われました。

でも、呼吸が効果的にできていれば、呼吸時に自然とお腹は前に出てくるのです。効率のいい呼吸は胸式呼吸の動きも腹式呼吸の動きもどちらも起きるのです。

どうやら、声を出したり歌を歌ったり、パフォーマンスを助けてくれる呼吸のつもりが、お腹を前に出すことを意識する腹式呼吸にこだわるあまり、呼吸そのものを邪魔してしまっているんですね。

では、今回のまとめです。

今回のPOINT

・お腹が膨らむのは結果である。お腹の動きだけにこだわると、呼吸の効率を悪くする

効率のいい呼吸は、肋骨も横隔膜も動くその結果、胸もお腹も動く。

・効率のいい呼吸は肺がイチバン大きく膨らむこと。そのためには、胸もお腹も動いてOK

腹式呼吸を練習している皆さん、ぜひこの3つのポイントに気をつけてみてください。

 

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