今回のテーマは、「ナレーターにとってのアムロ・レイさん」で触れた
【自分のカラダに聞くこと】についてです。
パフォーマーにとって、スキルアップする上で一番の敵は何だと思いますか???
演出家でも、ディレクターでもありません。
講師でも、身内でもありません。
敵は、自分自身です。
あなた自身が、あなたのスキルアップを妨げるのです。
そのことを説明するために、一つ質問します。
レッスン中に講師から、または本番中にディレクターから
台本や原稿を読んだ後に「それ、ものすごく良い」と言われたとします。
でも、あなたにとってはいつもと違う感覚で、これは間違いだなとか、絶対にあり得ない読みをしたな、という状況ってありませんか?
これまでの経験を振り返ってみて、思い出してみてください。
少なからずあるはずです。
これがあなたのスキルアップを妨げる敵なのです。
このとき「絶対にあり得ない読みをしたな」という判断を下しているのはあなた自身。
あなたの判断基準が、今回の読みは失敗だったとか間違いだったという結論を下しているのです。
さて、あなたの判断基準はどうやって生まれたのでしょうか???
当然ですが、昨日今日で身に付いたものではありません。
人間には、生まれ持った本能的な習慣があります。
おなかが空いたから食べる、疲れたから寝るなど、人間が生まれながらにして備えている機能とも言えるでしょう。
また、これまでの何十年と生きてきた中で、様々な体験を通じて、多くのことを身に付けました。
いわゆる、身体で覚えるというものです。
初めはできなかったけど、繰り返していくうちに自然と身についていること。
これも、本能的なレベルまで落とし込まれているので、本能的な習慣と言えるでしょう。
身体で覚えたことは無意識のうちに実行していることが多いです。
でも、この本能的な習慣こそが、あなたの判断基準となっており、あなたのスキルアップを妨げる敵となるのです。
あなたが、練習中や本番中に今までに体験したことのない感覚にとらわれたとします。
あなたは、そのいつもと違う不自然な感覚に対して、「(いつもと違うから)今のは間違いだ」と評価を下します。
(いつもと違うから)を括弧で囲んだのは、この比較が無意識レベルで行われているからです。
あなただけではなく、多くの人に同じようなことが言えます。
自分の経験や習慣を頼りにして、自然なことやいつもと同じ感覚を「正しい」と評価し、
初めて体験することや不自然と感じることを「間違い」と評価するのです。
ですが、アレクサンダー・テクニークにおいては、「感覚評価はあてにならない」とされています。(詳しくは後日アップします)
先の質問について考えてみましょう。
どれだけ演出家やディレクターが賞賛したとしても、あなたにとっては不自然なことであり、間違いな「読み」をしてしまったのです。
いつもと違うことは不安です。
間違っているように感じます。
ですが、今起きていること全ては新しいことであるはず。
ならば、全てが初めて体験することであるはず。
(「初心」でも触れています)
にもかかわらず、それを間違いだと判断してまう。
それは、いつもの結果にたどり着きたいという本能的なディレクションのせいです。
本能的なディレクションに従い続けると、いつしか予定調和のパフォーマンスしかできなくなってしまいます。
(私もその状況に陥ってしまっていました…)
この状況から抜け出すために、「不自然だった」とか「○○な感覚だった」という抽象的なことを判断基準にするのを止めましょう。
その一歩前、不自然や感覚が生まれるきっかけとなった自分のカラダの動きに気づくことを始めましょう。
私たちのカラダは非常に良くできていて、何をどうすれば何ができるかを知っています。
例えば、「ペットボトルを掴む」ために、カラダのどの部位をどれだけの力でどの方向に動かせばよいかを知っています。
この一連の動作は、誰に教わることもなく私たちは知っていますし、することができるのです。
もちろん発声や呼吸、原稿の読み方などにも言えること。
無理したり、頑張ったりしなくてもできるのです。
(「無理をする」や「頑張る」は、「必要な力を使う」とは全く異なります)
過去の習慣にとらわれて判断するのではなく、今カラダがどう動いたか、動いているかに気づきましょう。
それが「カラダに聞く」ということです。
そして、今の動きが正解だっだか間違いだったかということは、問題ではありません。
考えるだけ無駄です。
そもそも、何のため今の動きをしたのでしょうか?
正しい動きをするためではありませんよね。
何か達成したい目的があって、それを達成するために動いたはずですよね。
目的を達成するために、効率的にカラダを使うことの方が大切です。
(アレクサンダー・テクニークは、そのための方法と言えます。)
正解・不正解にこだわりたいのであれば、目的が達成できたなら全て正解だと考えていいのではないでしょうか?
そして次の打席で、さらに効率よくカラダを使うことができれば、以前よりも良い結果が出るでしょう。
そのために解剖学からのアプローチは、カラダからの情報を聞きやすくする助けになってくれます。
今後、解剖学からのアプローチも取り上げていきますね。