腹式呼吸は、発声のトレーニングを進めていく上で誰もが通る道でしょう。
「お腹に空気を入れてー」とレッスンで習う方も多いでしょうし、そう教えられている方も多いです。
でもちょっと待ってください!
お腹に空気は入りませんよ!
いやいや、そんなことは知ってるよ、という方、
「お腹に空気が入るイメージだよ」といっても、身体はイメージ通りに動きます。
あなたが、お腹に空気が入るはずがないと思っていても、お腹に空気を入れるイメージを持っているとその通りに動こうとします。
当然、お腹に空気は入りませんから本来力がいらない部分に余分な力が掛かったり、そのバランスをとるために身体のどこかの部位が、非効率的な動きをしてしまうわけです。
結果として、腹式呼吸をしているのに息が長続きしない、ということが起きるわけです。
さて、呼吸について考えてみましょう。
呼吸は吐く・吸うの二つの動作のことですが、どちらから考えるべきでしょうか?
発声にあたって、息を吐く・息を吸う、どちらを先に行いますか?
多くの方は、吸うことだと思います。
たくさん吸うとそれだけ息が長続きしそうな気がします。
では、今あなたの呼吸を一瞬だけ止めてみましょう。
止める前の動作(吸った、または吐いた)は関係ありません。
さて、ここで質問です。
呼吸を止めた状態で、あなたの体の中(具体的には肺)には空気は残っていますか?
肺は空洞です。成人男性で約4,000~5,000mlくらいの容量があります。
一回の呼吸で約500mlの空気が出入りします。
この呼吸をしているときは、肺の中の空気は最小で約2,000ml、最大で2,500mlだそうです。(安静な呼吸時)
そこからめいっぱい息を吐ききったとしても、約1,000mlは肺の中に残っています。
空気がなくなることはありません。
(ちなみに、肺の重さは成人男性でひとつ約1,000gだそうです。)
以上のことから、先の質問に答えると「空気は残っている」です。
ですので呼吸のスタートを切るには、まず、体の中に残っている空気を出してあげた後の方が、よりたくさんの空気を吸うことができるのです。
というわけで、人間が呼吸をするとき、まずは吐くことからスタートした方がいい、ということになります。
次に考えるポイントは、肺の大きさ。
肺がどのくらい大きいか、自分の身体のどのくらいを占めるかを考えたことはありますか?
肺は肋骨に守られています。
かなり大まかなイメージですが、肋骨の内側が肺とイメージしてみるといいでしょう。
(正確には心臓などの臓器もありますが)
下は肋骨の一番下の骨のあたりまで、上は鎖骨と同じ高さくらいまであります。
想像していたよりも大きいでしょう?
あなたが吸った空気は、肺、つまり鎖骨の高さから肋骨の一番下くらいまでのサイズの空洞に入るわけです。
当然、前後の厚みもあります。
ですが、肺が自発的に空気を取り入れるわけではありません。
空気を取り入れるには横隔膜が働きます。
横隔膜が下がると、肺の気圧が下がります。
この気圧の変化が起こったために、肺に空気が流れ込んでくるのです。
あなたが今いる部屋でイメージしてみましょう。
部屋の壁四方を肋骨、床を横隔膜、部屋の空間が肺、天井の換気口を気道とします。
床がズドンと下がったとします。
すると部屋の気圧が下がり、換気口から部屋に空気が流れ込んできます。
床が元に戻ると、その逆のことが起こります。今度は部屋の空気が換気口から押し出されます。
これと似たようなことが体の中で起こっているのです。
ということは、息を吸うのではなく、空気が入ってくる、という方が起きていることに沿った表現になると思います。
まずは呼吸をするにあたって、
・呼吸のスタートは吐くことから
・息を吸うのではなく、横隔膜が動くことで空気が入ってくる
この二つをもとに、次回はさらに深く考察していきましょう。