ナレーター・声優にとって、原稿や台本はほとんどの場合、仕事に書かせないものです。
みなさんは原稿に向き合うとき、何か意識していることはありますか?
よく耳にするのが、大事な原稿に集中しすぎて文字を読むのに一生懸命。
映像をほとんど見ていない、というケース。
映像を見ている方が、いいパフォーマンスができることって多いと思います。
映像から受け取る情報は何らかの気持ちの変化を与えてくれますから、セリフやナレーションに影響を与えると思います。
かといって映像に集中しすぎると原稿がおろそかになって次のセリフやナレーションをとちってしまう…
こんなこともあります。
最近、私が効果アリと感じるのが「私の全てで原稿に向き合う」ということ。
まず、私と原稿の関係性を考えましょう。あなたにとって、原稿はどんなものでしょうか?
私にとって原稿は「読まなければいけないもの」ではなくては「読みたい」と思えるものです。
仕事だから読まなくてはならない、のではなく、
私が選んだ仕事は私がやりたいこと。だから原稿に書かれている内容は私が読みたいもの。
そう考えています。
さて、原稿を手にしたあなたは原稿に書かれている文字を読もうとします。
その前に考えて欲しいことがあります。
「その場所はあなたと原稿だけのものではない」ということ。
周囲にあるものに気づいてみてください。
直接目を向ける必要はありません。
原稿に目を向けているままでも、あなたの視界には周囲のものが目に入っているはずです。
例えば、録音ブースには何がありますか?
マイクやモニター、ヘッドホン。
外にはスタッフの方々、そして音響機材もたくさんあるでしょう。
例えば自宅で練習しているときだったら、何がありますか?
マイク、机、ぬいぐるみ、ノートパソコン、などなど。
周りに何があるかに気づいたあなたにはある変化が起きます。
さっきまでとは少し変わっていることに気づいたでしょうか?
周囲に何があるかを認識できると、人間は安心できるのです。
動物的本能の一種だと思うのですが、周囲に自分の生命を脅かすものがないことを認識するだけで、安心できるのです。
本番前の不用意な緊張を和らげるのにもこの方法は役に立つでしょう。
こうすることであなたは「あなたの全身でその場所にいる」ことができるようになります。
その精度をあげることができれば、日常生活でも佇まいが変わります。
(精度を上げる為の方法はまた改めて)
これで原稿に向き合うためのあなたの準備ができました。
さて、原稿に目を向けましょう。
原稿もあなたの周りにあるものうちの一つ。
あなたに危害を与えるものではありません。
さて、今のあなたにとって原稿の見え方は変わったはずです。
これが「私の全体で原稿に向き合う」ということです。
先ほどは「原稿の文字を読もう」としていました。
しかし、あなたは文字を認識できますし原稿に書かれている文章の意味もわかります。
わざわざ「読もう」とする必要はありません。
文字が視界に入るだけで、あなたの脳はどんな音を出せばいいのか瞬時に処理することができるはずです。
あなたは普段から文字を読むことができますしそれを声にして出すこともできますよね。
実は「原稿を読もうとすること」は、本来受動的であるべき「原稿を読む」という行動を、能動的に行うことで脳に不要な司令を送っているのです。
なぜ私が「読む」ことが能動的でなく受動的だととらえているかはまた別の機会に。