「声帯を鍛える」がわからない男性とのレッスン
役者の稽古をしている男性、おさむさん(仮名)がレッスンに来てくださったときのことです。

おさむさんは「声帯を鍛える」ということがサッパリわからない!という悩みを持っていました。

おさむさん
先生に「声帯を鍛えなさい」と言われたのですが、何をすればいいかわからないのです。

トクガワ
先生にそう言われたんですね。その先生は、鍛え方を教えてくれましたか?

おさむさん
いえ、鍛え方を質問したのですが「自分で考えろ」と言われてしまいました・・・・

トクガワ
そうですか。ということは、その先生は具体的な方法を知らないんでしょうね。

おさむさん
そうなんですか?

トクガワ
もし先生が具体的な鍛え方を知っているなら、もう少し別の言葉を使ったはずですからね。

おさむさん
先生も知らないなら、なぜ私にそうしろと言ったのでしょう?

トクガワ
それは私にもわかりません。でも先生は間違ったことをしたとは思っていないでしょう。正しいことをしていると信じているはずです。

おさむさん
はぁ・・・

トクガワ
ところで、先生がいう「声帯」って、どこのことだど思いますか?

おさむさん
えっと・・・このあたりでしょうか?(おさむさん喉のあたりを指さす)

トクガワ
みなさん、そのあたりを指しますよね。ではどこからどこまでが声帯ですか?

おさむさん
・・・わからないです。

トクガワ
ですよね。だって「声帯」というものは存在していないんですからね。

おさむさん
えっ?声帯がなければ声が出せないじゃないですか?

トクガワ
なぜですか?

おさむさん
声を出す時って声帯が振動しているんじゃないんですか?

トクガワ
ということは、今こうしてお話をしているおさむさんのカラダのどこが振動しているんでしょうか?

おさむさん
声帯です。

トクガワ
おさむさん、声帯ってどこですか?

おさむさん
えっと・・・このあたりです。(また喉の部分を指す)

トクガワ
そのあたり全部が振動している?

おさむさん
いや・・・そういうわけではないと思います。

トクガワ
ですよね。ちょっと意地悪なことをしてしまったかもしれませんが、こんな風に声帯が何を指しているかと言うことについてほとんどの人がうやむやにしているんです。

おさむさん
・・・そういえば、今まで教わってきたことやネットで見た声帯に関する情報って、人によって言っていることが違ったような気がします。

トクガワ
その通りなんです。だからみんな曖昧なまま放置しているんです。

おさむさん
じゃあ、ボイトレとか発声の練習で言われている「声帯を鍛える」ってどういうことなんですか?

トクガワ
その質問に答えるために、別の例をお話しましょう。おさむさんは「肩」という言葉を聞いたことがありますか?

おさむさん
はい。このあたりですよね。

トクガワ
今「このあたり」と言いましたよね?

おさむさん
はい。言いました。

トクガワ
ではどこからどこまでが肩でしょうか?

おさむさん
えっと・・・この辺からここくらいまでですかね(おさむさん、鎖骨から腕の関節あたりまでを触れる)

トクガワ
今「ここから」って言いながらおさむさんが刺した所は鎖骨ですね。で「ここまで」と言っていたときに挿していたのは肩胛骨の一部ですね。

おさむさん
このあたりを肩と言うんじゃないですか?

トクガワ
いや、残念ながら私たちのカラダに「肩」という部位は存在していないのです。

おさむさん
えっ?

トクガワ
とはいえ、肩という言葉を言われておさむさんはその意味を理解できるでしょう?今もご自身が思っている肩についてここからここまでと教えてくれましたからね。

おさむさん
はぁ・・・

トクガワ
でもそれが相手が意味している肩とは必ずしも一致するとは限らないわけです。

おさむさん
うーん、そうでしょうか。

トクガワ
前にレッスンに来てくださった女の子とも似たような会話をしたんですけどね、その女の子は自分の肩をここだと言っていました。(トクガワ、腕の付け根を指さす)

おさむさん
たしかに私が肩と考えている所とは違いますね。

トクガワ
不思議なことに、私たちのカラダにある肩は人によって場所が変わるんですよ。だから私は、人間の体には肩はないと考えています。むしろ、誤解を生む原因となる存在とも考えています。

おさむさん
誤解を生む原因、ですか?

トクガワ
そうです。例えばある人が「肩をもう少し上に上げて」と言ったとしましょう。するとおさむさんと先ほどの女の子では、異なる動きをするわけです。

おさむさん
・・・あ、そうですね。僕とその女の子はどこを肩と考えているかが違うので、確かに違うことをしますね。

トクガワ
だから私は、極力「肩」という言葉を使わないようにしています。

おさむさん
肩についてはなんとなく理解できました。これが声帯とどう関係があるのでしょう?

トクガワ
もう答えを言ったも同然なんですけどね・・・。肩も声帯も同じです。存在していないんです。

おさむさん
でも声帯が振動するから声が出せるんですよね?

トクガワ
振動するのは声帯ヒダですね。

おさむさん
声帯ヒダ?

トクガワ
せっかくなので喉頭、つまり喉のあたりの図を見ておきましょうか。

トクガワ
私たちの発声器官の1つである喉頭はこんな風になっています。ここに声帯筋というものがあります。更にその上には声帯靱帯と呼ばれるものがあって、その上には粘膜があります。


『プロメテウス解剖学 コア アトラス 第2版』
図39.21 前庭ヒダと声帯ヒダ

おさむさん
こんな図、初めて見ました。

トクガワ
おそらく、この構造はおさむさんのカラダにもあるはずです。そして、これらをまとめたものが声帯ヒダです。声を出すときはこの声帯ヒダが振動しているんです。

おさむさん
では、この声帯ヒダというものが「声帯」なんでしょうか?

トクガワ
そうですね。ですが、多くの人は声帯という言葉が何を指しているか、バラバラなんですね。ある人は声帯筋のことを指していたり、ある人は声帯靱帯のことを指していたり・・・。

おさむさん
たしか、インターネットで調べてみたとき、人によって言ってることが違うと感じました。

トクガワ
ですよね。それに、先ほど見ていただいた図のどこからどこまでを指して「声帯」というかも、人によっては異なるんですよね。だから私は「声帯」という言葉を使うこと自体が混乱を招くんだと考えているんです。

おさむさん
だから「肩」と同じ、と言うわけですね。

トクガワ
そうです。肩という言葉が人によって認識が違うように、声帯という言葉も人によって認識が違います。だからそんな曖昧な言葉を使っていると、誤解を招くだけなのです。

おさむさん
では、「声帯を鍛える」という言葉はどのように考えればいいのでしょう?

トクガワ
私は「声帯を鍛える」という言葉がなくなればいいと考えています。

おさむさん
どうしてですか?

トクガワ
声帯について人によって認識が異なるのはお伝えしたとおりですよね。声帯のことを声帯筋と考えている人もいれば、声帯靱帯と考えている人もいる。そのため「声帯を鍛える」についての考え方も人によって違うのです。

おさむさん
どんな風に違うんですか?

トクガワ
声帯のことを声帯筋だと考えている人は「声帯は筋肉だからトレーニングすれば鍛えられる」と言っていますが、声帯のことを声帯靱帯だと考えている人は「声帯は靱帯だから鍛えられない」と言っているわけです。

おさむさん
鍛えられると言う人と鍛えられないという人がいるわけですね。

トクガワ
そうです。ここでおさむさんのように「声帯を鍛えなさい」と言われてそれをやろうとしている人は、どっちの情報を信じていいかわからないですよね。

おさむさん
確かに。鍛えられるという人と鍛えられないという人がいますから、どっちが本当かはわからないです。

トクガワ
だから私は「声帯を鍛える」という言葉がなくなればいいと思っています。いや「声帯」という言葉を使う人が少しでも減ればいいとさえ考えています。

おさむさん
トクガワさんの考えも一理ありますけど・・・私が先生に言われた「声帯を鍛えなさい」というのはどう理解すればいいんでしょうか?

トクガワ
そうですね。私は、まず声門が開閉している仕組みを知ることが必要だと思います。

おさむさん
声門・・・ですか?

トクガワ
初めて聞きましたか?

おさむさん
はい。初めて聞きました。

トクガワ
声門というのは、左右の声帯ヒダの間にある隙間のことです。この隙間が開いたり閉じたりするのですが、ここに肺から送られてきた息が当たることで声帯ヒダが振動して音が生まれるんです。

おさむさん
へぇーそうだったんですね。

トクガワ
私たちが色々な声を出すことができるのは、この声帯ヒダの隙間を調整することができるからなんです。この図を見てください。


『プロメテウス解剖学 コア アトラス 第2版』
表39.7 喉頭筋の作用
A 喉頭筋、上方から見たところ

トクガワ
この声帯ヒダの隙間を開くとき、そして閉じるときに働いている筋肉があるのです。

おさむさん
へぇーそれぞれ別々の役割を持っているんですね。

トクガワ
そうなんです。私たちが声を出すときには、これらの筋肉が繊細なコントロールをしてくれるので色々な声を出すことができるワケです。

おさむさん
ではこれらの筋肉を鍛えればいいんですね!

トクガワ
そう考えるのはまだ早いですよ。発声に関する筋肉はこれだけではありません。この図を見てください。


『うたうこと 発声器官の肉体的特質―歌声のひみつを解くかぎ』
図35 喉頭懸垂(保持)機構

トクガワ
この図は先ほど見た図の外側にある筋肉たちです。これらの筋肉も発声には大きく関わっています。

おさむさん
喉の所にはこんなに筋肉があるんですね。

トクガワ
そうですね。声を出すためにはこれらが互いに協力し合って働く必要があるわけです。

おさむさん
でもこれらの筋肉はどうやったら鍛えることができるんでしょうか?

トクガワ
例えば腕や背中の筋肉を鍛えるにはどうすればいいと思いますか?

おさむさん
ジムに行って筋トレをする、とかでしょうか?

トクガワ
そうですね。まず真っ先に筋力トレーニングが思い浮かびますよね。

おさむさん
ってことは、この発声に関係する筋肉たちも筋トレが必要というわけですね?

トクガワ
筋肉なので鍛えることはできるでしょう。でもどうやってトレーニングすればいいのでしょう?

おさむさん
うーん、サッパリわかりません。

トクガワ
腕や背中の筋肉を鍛えるならその筋肉に負荷をかけるトレーニングが思い浮かぶでしょうけど、さすがにこれらの筋肉に負荷をかけるのはあまりよくないと考えます。

おさむさん
どうしてですか?

トクガワ
傷めてしまうと声を出すのが辛くなるからです。

おさむさん
ではやはり鍛えられないんでしょうか?

トクガワ
私は、使うときに意識するだけでいいと考えています。

おさむさん
使うときに意識するだけですか?

トクガワ
そうです。つまり、声を出すときにこれらの筋肉を意識しながら声を出すんです。無理に使おうとするのではなく、これらの筋肉が働いてくれるようにお願いするだけでいいんです。

おさむさん
それだけで本当にいいんですか?

トクガワ
はい。おさむさんは今までこれらの筋肉のことは知らなかったわけですよね?

おさむさん
はい。今日初めて知りました。

トクガワ
ということは、これまでおさむさんが声を出すときには勝手に働いてくれていたわけです。でも今、おさむさんはこれらの筋肉の存在を知りましたから、意識して使うこともできるようになるわけです。

おさむさん
意識するってことは、力を込めればいいんでしょうか?

トクガワ
それは多くの人がやってしまいがちなんですよね。意識する=力を込める、ではありません。今まで以上に仕事をしてもらうことをお願いするだけでいいんです。

おさむさん
たったそれだけですか?

トクガワ
はい。試してみませんか?

おさむさん
そうですね。試してみたいです。

トクガワ
ではまず、いつも通りに声を出してみましょうか。

おさむさん
どんなことを言えばいいでしょうか?

トクガワ
何でもいいですよ。

おさむさん
えっと・・・そうですね・・・

トクガワ
自己紹介や挨拶でもいいですよ。例えば「こんにちは、洋介です」とか。

おさむさん
では、それで。

トクガワ
まずはいつも通りに声を出してみてください。

おさむさん
こんにちは、洋介です。

トクガワ
はい、ありがとうございます。次は、先ほどお見せした図の筋肉たちがお仕事するようにお願いしながら同じ事を声に出してみてください。

おさむさん
こんにちは、洋介です。

トクガワ
はい、ありがとうございます。私には違って聞こえましたがおさむさんはご自身でどう感じましたか?

おさむさん
たしかに違いました。1回目の方はいつも通りに声を出しているんですが、2回目の方はより力が抜けた感じがしました。

トクガワ
いいですね。おさむさんのカラダの使い方を見ていると、1回目の方は喉のあたりにものすごく力を込めているように見えました。そして2回目はそれがなかった。なのに、1回目よりも大きく、ひびきのある声でしたね。

おさむさん
そうですか・・・自分では1回目にそんな力を込めているつもりはなかったんですか・・・

トクガワ
おそらく、その使い方がおさむさんのいつもの使い方になってしまっていたのでそう感じていたんでしょうね。でも2回目と確実に違いましたよね。

おさむさん
はい、違いました。

トクガワ
これはあくまで私の考えですが、いままではある特定の部分だけに無理やり仕事をさせようとしていたのが、2回目はたくさんの部分が協力して仕事をしていたからこんな変化が起きたんです。

おさむさん
あ、「声帯を意識する」ということが邪魔していたんですね。

トクガワ
その通りです。しかも、声帯なんてありもしないのに。2回目は発声に関わる筋肉たちがそれぞれ仕事をした結果です。

おさむさん
それでこんなに楽になるものなんでしょうか?

トクガワ
例えば、おみこしを担ぐとき、4人で担ぐのと8人で担ぐのではどっちが楽ですか?

おさむさん
8人で担ぐ方が楽です。

トクガワ
2回目に声を出してもらった時のおさむさんはそれと同じ事をしただけですよ。

おさむさん
ということは・・・普段、力を入れながら声を出していたんですね

トクガワ
そうかもしれませんね。さて、私は、これこそが「声帯を鍛える」が意味していることだと考えています。

おさむさん
どういうことですか?

トクガワ
今まであまり使われていなかった発声に関わる筋肉たちを、こんな風にそれぞれがそれぞれののお仕事をするようにしていくことです。別の言い方をすると、神経支配を強めていくともいいますね。

おさむさん
神経支配、ですか?

トクガワ
今まではあまり使われていなかった筋肉たちを必要に応じて活動してもらえるようにしていくことですね。そのためにはカラダのデザインに沿った使い方をしていく必要があります。

おさむさん
カラダのデザインですか?

トクガワ
はい。私たちのカラダは骨や筋肉でできていて、神経のようなネットワークが張り巡らされています。

おさむさん
たしかテレビで聞いたことがあるような・・・

トクガワ
今も世界のどこかで科学者が研究して私たちのカラダの謎を解き明かそうとしてくれているはずです。その中の一つに、ある普遍的なことがあります。

おさむさん
それは・・・?

トクガワ
私たちのカラダには生まれ持ったデザインがあります。約200あまりの骨が形成している骨格があって、どこの関節が曲がるとか、そのためにはどんな筋肉が働くかとか。

おさむさん
骨がたくさんある、というのは聞いたことがあります。

トクガワ
生まれ持ったカラダのデザインがあるのですが、そのデザインに反した使い方をすると、私たちのカラダの機能や可動性、柔軟性が損なわれてしまうのです。

おさむさん
えっ!?どういうことですか?

トクガワ
ついさっき、おさむさんが体験したことですよ。

おさむさん
さっきは、ただ声を出しただけですけど・・・?

トクガワ
確かにそうですね。2回声を出してもらいましたけれど、1回目はカラダのデザインに反した使い方、2回目はカラダのデザインに沿った使い方だったんですよ。

おさむさん
それで2回目の方が声を出しやすかったですね。

トクガワ
その通りです。声帯という私たちのカラダに存在しないものを意識するあまり、おさむさんが自分で自身のカラダを邪魔をしていたんですね。それをなくしてデザイン通りに使うことができたから、声を出しやすくなったわけです。

おさむさん
なるほど・・・

トクガワ
だから「声帯を鍛える」ことに時間を使う暇があったら、私はカラダのデザインに反する使い方をする習慣を変えていく方がよっぽど近道だと思います。

おさむさん
それはどうやったらできるのでしょうか?

トクガワ
そうですね。まずは自分でその習慣に気づくことができなければ始まりません。でも私のレッスンの本質はその能力を身につけてもらうことなんです。だからこのままレッスンを続けてもらえれば、おさむさんにもその能力は確実に身につきますよ。

おさむさん
ただ声が変わるだけじゃないわけですね。

トクガワ
その通りです。その能力が身につけば、私はその人の未来が変わると信じています。さて、残った時間で何かやってみたいことがありますか?

おさむさん
はい!アルバイトでコールセンターのオペレーターをやっているのですが、長時間勤務しているとだんだん声を出すのが辛くなってきて・・・

トクガワ
わかりました。それを題材にカラダのデザインに沿った使い方を考えていきましょう。

・・・と、おさむさんとのレッスンは続きます。

さて、「声帯を鍛えなさい」と言われていたおさむさんの声はレッスン中に変わってしまいました。

鍛えなくても、より大きな声やより響く声は出せるんです。

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