こんにちは。
発声改善士のトクガワ です。
営業のお仕事をされているおさむさん(仮名)がレッスンに来てくださったときのことです。
おさむさんは、こんな悩みや望みを持っていました。
・先輩に「もっと声を前に出せ」と注意される
・声を前に出すと、だんだん声が出しづらくなる
・それでも続けていると、声が枯れてプレゼンをするのが辛くなる
おさむさん
今度、私が担当するようになって初めてのセミナーがあるのですが、この前、先輩の前で予行演習をさせてもらったんです。
トクガワ
そうですか。おさむさんは司会ですか?
おさむさん
司会もしますし、私自身が話す時間も30分くらいあります。
トクガワ
ではおさむさんがプレゼンしているのも見てくれたわけですね。
おさむさん
はい。そうなんですけど、先輩に「もっと声を前に出せ」と言われたんです。
トクガワ
なるほど。
おさむさん
それで次の予行演習の時は声を前に出してプレゼンしてみたんですけど、そうするとだんだん声が出しづらくなって、最後の方には声が枯れて、プレゼンするのが辛くなってしまったんです。
トクガワ
それで先輩にはなんと言われましたか?
おさむさん
「普段、そんな声で発声してないから慣れてないだけで、そのうち慣れるよ」と言われました。
トクガワ
うーん、そうでしょうか?
おさむさん
私もそう思うんです。慣れるまでこんな声でプレゼンするのは、セミナーに来てくれた方々に申し訳ないのでなんとかしたいんです。
トクガワ
そうですか・・・いきなりですけど、声が枯れた時のプレゼンではどんな風にやっていましたか?できればその時のような声の出し方で、出だしの所だけでいいのでやってみてもらえませんか?
おさむさん
はい・・・皆さん、今日はお忙しい中お越しいただきありがとうございます。私、株式会社○○の山中です。今日のテーマは・・・
トクガワ
はい、ありがとうございます。
おさむさん
これだけでいいんですか?
トクガワ
はい。色々とわかりました。
おさむさん
何がわかったんでしょうか・・・?
トクガワ
その前に、先輩に「声を前に出せ」と言われた時はどんな風にやっていましたか?
おさむさん
それまでは「声を前に出す」って意識したことがなかったので、いつも通りにやっていました。
トクガワ
その時のことを思い出しながら、それもやってみてもらえませんか?
おさむさん
はい・・・皆さん、今日はお忙しい中お越しいただきありがとうございます。私、株式会社○○の山中です。今日のテーマは・・・
トクガワ
はい。ありがとうございます。
おさむさん
これで何がわかるんでしょうか?
トクガワ
今、同じフレーズを2回話してもらいましたけど、どちらの方がやりやすかったですか?
おさむさん
えっ?やりやすさでいうと、2回目の方です。
トクガワ
「声を前に出す」を意識していないときの方ですね。
おさむさん
そうです。
トクガワ
そうですよね。私にもそう見えましたから。
おさむさん
えっ?そうなんですか?
トクガワ
はい。私はプレゼンをしているときのおさむさんのカラダの使い方を見ていたんですけれど、明らかに違いがありました。そしてそれが、声が枯れる原因になっているんじゃないかと推測しています。
おさむさん
どんな違いがあったのでしょうか?
トクガワ
私からお伝えする前に、おさむさんご自身で何か気づくことはありませんか?
おさむさん
うーん、声を前に出そうとしているので力が入っているような気がします。
トクガワ
そうですね。そして、その時にどこに力が入っているかわかりますか?
おさむさん
いや、わからないです。
トクガワ
今、おさむさんのカラダの使い方を見ていて、手から肩にかけてがかなり緊張しているように見えたんです。
おさむさん
手から肩にかけてですか?
トクガワ
はい。特に手のひらでその違いが大きかったんですね。何か気づきました?
おさむさん
いえ、全く気づかなかったです。
トクガワ
「声を前に出す」ことを意識してプレゼンしたときは手のひらをグーにして握りしめていました。でも、いつも通りやってもらったときはパーになっていたんですね。
おさむさん
それは全く意識していませんでしたけど・・・声に関係あるのですか?
トクガワ
大いにありますよ。発声はカラダ全体で行われていることですから。声を前に出そうとすることが、手をグーで握りしめて強く緊張させているんじゃないかと推測しています。そしてこの緊張が呼吸などを邪魔してしまうので、話しているうちに声が枯れてしまうんじゃないかと。
おさむさん
でも先輩には「声を前にだせ」と言われましたし・・・
トクガワ
うーん、それはやらなくてもいいんじゃないでしょうか?そもそも、声は前に出さなくても前に出て行きますよ?
おさむさん
ええっ?どういうことですか?
トクガワ
私たちのカラダは、ただ声を出すだけで前に出て行くようなカラダのデザインをしています。
おさむさん
カラダのデザイン、ですか?
トクガワ
そうです。カラダの構造と言ってもいいですね。この図を見てください。
トクガワ
これが気道ですよね。この下に肺があります。声を出すときは肺から押し出された空気が声帯ヒダを振動させることで音が生まれますよね。
で、音は空気の振動ですから空気の流れに乗って伝わっていくわけです。声門を通過した空気はそのまま上方向に流れていきますが、口蓋垂や軟口蓋によって方向を変えられるわけです。
で、音は空気の振動ですから空気の流れに乗って伝わっていくわけです。声門を通過した空気はそのまま上方向に流れていきますが、口蓋垂や軟口蓋によって方向を変えられるわけです。
おさむさん
この図でいうと③のところですか?
トクガワ
そうです。空気の通り道がそうなっているので、そのまま前に出て行くわけです。
おさむさん
だからわざわざ声を前に出さなくても前に出て行くわけですね。
トクガワ
そうです。そして多くの方は声を前に出すために何か余計なことをしているんです。
おさむさん
それが私の場合は手をグーにして力を込めていたことですね。
トクガワ
はい。人によっては、声を出すときに首を前に突き出すようにしたり、カラダ全体を後に傾けたり、色んなことをしています。しかもそれはカラダの構造とは真逆ことをしているんですね。そうすると私たちのカラダの機能は邪魔されてしまいます。
おさむさん
私が手をグーにして力を込めていたことがそんなに影響を与えますか?
トクガワ
はい。私が見たのは、おさむさんの手から腕、鎖骨・肩胛骨までの緊張です。これは呼吸を邪魔しています。
おさむさん
それが呼吸の邪魔になるんですか?
トクガワ
はい。呼吸に合わせて肋骨がわずかに動くんですけどね、鎖骨・肩胛骨が緊張しているとそれが周辺にも影響を与えるわけです。私の見立てでは、手をグーにして力を入れていたことが呼吸の邪魔をしていて、それが発声の邪魔をしている、と推測しています。
おさむさん
ということは、「声を前に出す」ことと手をグーにやることをやめればいいわけですね。
トクガワ
・・・一度、試してみましょうか?
おさむさん
はい。
トクガワ
では「声を前に出す」ことと手をグーにやることをやめながら話してみましょうか。
おさむさん
皆さん、今日はお忙しい中お越しいただきありがとうございます。私、株式会社○○の山中です。今日のテーマは・・・
トクガワ
どうでしょうか?
おさむさん
うーん、できていたようなできなかったような・・・
トクガワ
私が見ていた限りでは手をグーにして力を入れていたように見えましたよ。さっきと比べるとほんの少し緩んでる気がしましたが、まだ力が入っていましたね。
おさむさん
そうですか・・・
トクガワ
ではもう一度やってみてもらいたいのですが、私から一つ提案をしますね。
おさむさん
はい。
トクガワ
今度やってもらうときに、先ほど見ていただいた図を思い出して「息を肺から上方向に向かって出す」ことをしながらやってみて欲しいんです。
おさむさん
それだけですか?
トクガワ
はい、それだけです。お好きなタイミングで始めてくださいね。
おさむさん
・・・皆さん、今日はお忙しい中お越しいただきありがとうございます。私、株式会社○○の山中です。今日のテーマは・・・
トクガワ
はい、今回はどうですか。
おさむさん
息が上方向に行くと言うのを思って声を出してみたんですけど、さっきの手をグーにしていたときと同じくらいの声が出ていたと思いました。でも、ものすごく楽で、これならプレゼンも声をからさずにできそうな気がします。
トクガワ
それは良かったです。プレゼンの時もぜひ使ってみてください。
おさむさん
それはそうなんですけど・・・どうしてこんなに楽に声を出せるようになったんですか?
トクガワ
それはおさむさんがご自身で発声の邪魔をしていて、それがなくなったからです。
おさむさん
自分自身で声を出す邪魔をしていた・・・?
トクガワ
はい。声を前に出すことを意識すると、手をギュッと握りして力を入れていたわけです。それが発声の邪魔をしていたんですけど、そのまま声を出し続けていたので発声器官が疲弊して声が枯れてくるわけです。
おさむさん
でも手をギュッてするのをやめようとたしたときは上手く行きませんでした。
トクガワ
それは「やめる」ということは具体的な行動を伴わないからです。
おさむさん
具体的な行動を伴わない・・・?
トクガワ
はい。手をギュッとするのをやめるというのは、どういうことだと思いますか?
おさむさん
文字通り、手をギュッとするのをやめる、と言うことだと思いますけど・・・?
トクガワ
では、具体的に何をすれば手をギュッとするのをやめることができますか?
おさむさん
えっ?・・・手をギュッとするのをやめればいいんじゃないですか?
トクガワ
でもさっきおさむさんがそうやったとき、まだ手をギュッとしていましたよね?
おさむさん
あ、確かにそうです・・・
トクガワ
私たちはね、「○○するのをやめる」ということを正確に理解できないんです。それどころか「○○する」のほうが具体的な行動なので印象に残りやすいのです。
おさむさん
だから「手をギュッとするのをやめる」ことをしても手をギュッとしてしまっていたわけですね。
トクガワ
その通りです。だから、それをやめたいなら、他の具体的な行動を自分に指示してあげる必要があるわけです。
おさむさん
それがトクガワさんが提案してくれたことですか?
トクガワ
そうです。私が提案したのは「息を肺から上方向に向かって出す」ということでした。これをやってもらうことで、結果的に「手をギュッとする」ことへの注意が薄れるわけですね。
だから手をギュッとすることが起きなかったので、おさむさんが自分で発声の邪魔をしなくなったわけです。
だから手をギュッとすることが起きなかったので、おさむさんが自分で発声の邪魔をしなくなったわけです。
おさむさん
ということは「声を前に出す」ということが声を出す邪魔をしていた、と言うことになりますね。
トクガワ
そうですね。先輩にとってはその表現でもうまく機能したのかも知れませんが、おさむさんにとっては逆に邪魔をすることになってしまったわけですね。
カラダの使い方の習慣は人によって違うので、すべての人に効果的に機能する方法はありません。本当は一人一人に最適な提案があるんですよ。
カラダの使い方の習慣は人によって違うので、すべての人に効果的に機能する方法はありません。本当は一人一人に最適な提案があるんですよ。
おさむさん
なるほど。でもこれでプレゼンについての心配はなくなりました。
トクガワ
良かったですね。成功を祈ります。
おさむさん
はい、ありがとうございます!
今回のレッスンについての解説はこちら
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